― 経営者が知っておきたい「寄付金税務」のポイント ―
先日、ある会社のホームページを見ていたところ、社長の創業時からの理念で「社会貢献」を中心に事業も行っている…とあり、売上の一部はその年に災害があった地域に支援金として送ったり、いろいろと行っているのを拝見しました。
企業として社会貢献に取り組む場面は年々増えています。災害支援、地域イベント、NPOへの寄付など、「会社として良いことをしたい」という思いは当然のものです。しかし税務の世界では、寄付金は原則として“そのまま経費にはならない”という扱いです。ここを理解せずに寄付すると、思わぬ追徴課税につながることもあります。
今回は、法人が支出した寄付金がどのように扱われるのかを、経営者向けに分かりやすく解説します。
■ 1. 寄付金は原則「損金不算入」
まず押さえておきたいのは、寄付金は原則として法人税の計算上、経費にならないということです。
ただし、例外として
- 全額経費にできる寄付金
- 一定の限度額の範囲内で経費にできる寄付金
が存在します。
「どこに寄付したか」によって扱いは大きく変わります。
■ 2. 全額損金算入できる寄付金
もっとも扱いがシンプルなのが、この「全額経費になる」寄付金です。
対象となるのは、
- 国・地方公共団体への寄付(災害義援金を含む)
- 政党等への寄付(法律で定められたもの)
- 認定NPO法人等への寄付の一部
など、公益性が極めて高いと認められるものに限られます。
特に災害寄付金は扱いが明快で、自治体に対して寄付した場合は全額が損金として認められます。大口寄付を検討する場合は、この枠を使うことも有効です。
■ 3. 限度額の範囲内で損金算入できる寄付金
次に、企業が最も遭遇することの多い寄付金です。ここでは“限度額”という考え方が登場します。
● 一般寄付金
NPO法人、一般社団法人、社会福祉法人、地域イベントへの協賛金など、もっとも広い寄付金のカテゴリーです。
ただし「広い=経費にしやすい」ではなく、限度額が比較的厳しいため、期待より損金になる額が少ないケースがよくあります。
● 特定公益増進法人に対する寄付金
学校法人、公益社団・財団法人、社会福祉法人(一定のもの)、医療法人(一定条件)等が該当します。
一般寄付金よりも限度額が広く、比較的経費にしやすいカテゴリーです。
● 限度額ってどれくらい?
ざっくり言うと、次の2つをもとに計算されます。
一般寄付金限度額 = (資本金等 × 0.25% + 所得 × 2.5%)÷ 4
特定公益増進法人寄付金限度額 = (資本金等 × 0.375% + 所得 × 6.25%)÷ 2
中小企業の場合でも「寄付した全額が経費になる」ことはむしろ珍しく、限度額超過で損金算入できない部分が発生しやすい点に注意が必要です。
■ 4. 経費にならない寄付金(NGになるケース)
次のような寄付は、税務上は寄付金として認められず、**損金不算入(経費にできない)**となります。
- 限度額を超えた部分の寄付金
- 代表者個人の趣味や人間関係に関わる寄付
- 親族・友人への支援金
- 宗教団体への寄付(一定の場合)
特に注意したいのは、会社名義で支払っていても、実態が代表者個人の寄付であれば“役員給与”と認定される可能性があることです。
この場合、会社側は経費にできず、代表者には課税されるというダブルパンチです。
■ 5. 寄付金か?広告宣伝費か?の境目
企業が悩みやすいのがここです。
同じ金銭支出でも、次のような場合には広告宣伝費として全額損金算入できる可能性があります。
- 寄付先のパンフレットやHPに自社ロゴが掲載される
- イベントスポンサーとして社名が明確に露出する
- 広告効果が客観的に認められるケース
つまり「純粋な寄付なのか」「広告としての実態があるのか」が分かれ目です。
CSR活動を行う場合は、寄付金扱いにするより広告宣伝費に落とせる形を整える方が税務上は有利です。
■ 6. 寄付する前に確認すべき3つのポイント
寄付を検討する際には、次の点を事前にチェックすることをおすすめします。
- 寄付先はどんな団体か(自治体?認定NPO?一般NPO?)
- 寄付予定額は限度額の範囲内におさまるか
- 広告宣伝費として処理できる実態がないか
特にNPO法人は、「認定NPO」と「一般NPO」で税務上の取り扱いが大きく異なります。同じ“NPO”でも損金算入額は天地の差がありますので注意が必要です。
■ まとめ
寄付金は、企業にとって社会貢献を実現する大切な支出ですが、税務上の扱いは複雑です。
- 全額損金算入される寄付金
- 限度額の範囲内で損金算入される寄付金
- 損金算入できない寄付金
これらを正しく理解したうえで寄付を行うことが、結果として会社の負担を最小にし、より効率的に社会貢献活動を進めることにつながります。
寄付をご検討される際は、寄付先の区分や限度額計算など、事前に専門家へ相談しながら進めていただくことをおすすめします。
投稿者プロフィール

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税理士法人、行政書士法人、社労士事務所などのグループです。
税制は複雑化していく一方で、税理士を必要としない人々の税に関する知識は更新されていない…と感じ、より多くの人が正しい税知識を得て、よりよい生活をしてもらえたらいいなぁと思って開設したサイトです。専門用語には注釈をつけたり、いつも払っているだけの税金のその先も知ってもらえたら嬉しいです。
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