豪雨や地震などの災害で、家や家財、事務所が被害を受けてしまうことがあります。生活を立て直すだけでも大変な中で、「税金までどうなるのか…」と不安に思う方も多いのではないでしょうか。
実は、被災した方の税負担を軽くするための特例制度が用意されています。代表的なのが「雑損控除」と「災害減免法による所得税の軽減・免除」。
今回は、この2つを分かりやすく整理してご紹介します。
雑損控除とは?
雑損控除とは、災害・盗難・横領などにより、生活に必要な資産が損害を受けたときに使える所得控除の制度です。
確定申告で申告すれば、その年の課税所得から一定額を差し引くことができます。
対象になる資産
- 住宅や家具・家電など「日常生活に通常必要な資産」
- 通勤用の自転車や普段使いの鞄・時計など、生活必需といえるもの
雑損控除の対象外になる資産もあります!
- 貴金属、宝石、書画、骨董などの「高価なぜいたく品」
- 別荘、ゴルフ会員権など「生活に通常必要ない資産」
生活に不可欠なものは雑損控除が出来るのですが、高価な贅沢品や生活に通常必要ない資産は対象外です。
対象になる損害の原因
- 自然災害(地震・台風・豪雨・洪水・火災など)
- 人災(盗難・横領)
※ただし、自分の過失や故意による損害は対象外です。
控除額の計算方法
雑損控除額は、次の①と②のうち「いずれか多い方」を選びます。
① 損害額+災害関連支出-保険金など-所得の10%
② 損害額+災害関連支出-保険金など-5万円
控除の効果
- 課税所得を減らす効果があるため、所得税・住民税が軽減されます。
- 高い税率の人ほど効果が大きいです。
- 控除しきれない場合は、翌年以降3年間繰り越し可能です。
申告に必要な書類
- 罹災証明書(市区町村発行)
- 損害を受けた資産の明細書(被害内容や計算根拠)
- 修繕費や撤去費の領収書
- 保険金・支援金の通知書
- 写真や動画(損害を裏付ける証拠)
証拠の写真や動画についてはこちらを御覧ください。
災害減免法による軽減・免除とは?
大規模な災害(地震・台風・豪雨など)で住宅や家財に著しい損害を受けた場合、所得税そのものを軽減または免除してもらえる制度です。
雑損控除のように「所得から差し引く」のではなく、所得税そのものを直接減らす・無くすという点が特徴です。
対象になる人
- 災害により住宅や家財に損害を受けたこと
- 損害の程度が「住宅または家財の2分の1以上」であることが条件です。
- 家の一部損壊程度では対象外になることがあります。
- その年の合計所得金額が1,000万円以下であること
- 高所得者は対象外。
- 所得が少ない人ほどメリットが大きい制度です。
軽減・免除の内容
合計所得金額に応じて、所得税が「免除」または「1/2軽減」されます。
- 500万円以下 → 全額免除
- 500万円超〜750万円以下 → 1/2免除
- 750万円超〜1,000万円以下 → 1/4免除
※ 所得税の本税部分に適用。住民税には原則適用されません。
手続きの流れ
- 被害証明を入手
- 市区町村で「罹災証明書」を取得する。
- 住宅や家財の損害割合(2分の1以上)が分かる内容が必要。
- 確定申告で申請
- 確定申告書に「災害減免法による軽減・免除を受けたい」旨を記載。
- 罹災証明書などの添付が必要。
- 還付または免除
- すでに源泉徴収や予定納税で納めた所得税がある場合、還付を受けられる。
雑損控除と災害減免法の違いは?
項目 | 雑損控除 | 災害減免法 |
---|---|---|
制度の仕組み | 所得から控除 | 所得税そのものを免除 |
所得制限 | なし | 合計所得1,000万円以下 |
損害要件 | 生活資産の損害(基準なし) | 住宅や家財の2分の1以上の損害 |
効果 | 高所得者に有利 | 低〜中所得者に有利 |
繰越控除 | 3年間可能 | 繰越不可(その年限り) |
選択 | 併用不可 → どちらか選ぶ | 同左 |
どちらを選ぶべきか?
ざっくりいうと・・・
- 年収が高い人 → 雑損控除
所得税率が高いので、控除額が大きくなる。 - 年収が少ない人 → 災害減免法
そもそも控除できる税金が少ないので、直接「ゼロ」や「半分」にできる減免法の方が有利。
実際どのくらい税負担が軽くなるのか!?
雑損控除(所得1,000万円の方)
前提条件
- 年間所得:1,000万円
- 被害額:500万円(保険金なしと仮定)
- 災害関連支出:50万円(修繕・撤去費用)
- 損害合計:550万円
控除額の計算
雑損控除は次の①②の大きい方です。
① 損害額+災害関連支出-保険金-所得の10%
= 550万円-100万円(所得の10%)= 450万円
② 損害額+災害関連支出-保険金-5万円
= 550万円-5万円= 545万円
👉 よって控除額は 545万円
効果
課税所得:1,000万円-545万円= 455万円
税率は累進なのでざっくりですが、約180万円前後の税額軽減効果が期待できます。
災害減免法(所得300万円の方)
前提条件
- 年間所得:300万円
- 住宅や家財の2分の1以上に損害あり(条件クリア)
減免額の判定
合計所得金額が500万円以下 → 所得税 全額免除
👉 所得税そのものが ゼロ になります。
源泉徴収で納めていた税金も、確定申告をすれば全額還付されます。
まとめ:雑損控除と災害減免法、どちらを選ぶべき?
災害で家や家財、事務所に大きな被害を受けたとき、確定申告で使える大きな制度は 「雑損控除」 と 「災害減免法による軽減・免除」 の2つです。
雑損控除
- 仕組み:損害額を「所得から控除」して課税所得を減らす。
- 効果:高所得者に有利。税率が高いほど控除額が効く。
- 繰越控除:使い切れない場合、翌年以降3年間繰り越せる。
- シミュレーション(所得1,000万円・損害550万円)
→ 約545万円控除、税負担▲180万円程度の軽減。
災害減免法
- 仕組み:所得税そのものを直接「軽減・免除」する。
- 条件:住宅や家財の2分の1以上の損害 + 所得1,000万円以下。
- 効果:低〜中所得者に有利。所得が少ない人でも恩恵が大きい。
- シミュレーション(所得300万円・半壊以上)
→ 所得税が全額免除、源泉徴収分は還付。
選び方の目安
- 所得が高い人(例:年収1,000万円) → 雑損控除
- 所得が低い人(例:年収300万円) → 災害減免法
両制度は 併用できない ため、自分の状況に応じてどちらが有利かを比較して選ぶことが大切です。
最後に
災害直後は、生活再建や片付けで税金のことまで考える余裕がないかもしれません。
でも「写真の記録」「罹災証明書の取得」「領収書の保管」をしておくだけで、確定申告のときに税金の負担をぐっと減らせます。
税務の特例を正しく使うことは、生活を立て直すための大事な支援。
迷ったら税理士や自治体の相談窓口に早めに相談して、安心して再出発できるようにしましょう。
投稿者プロフィール

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税理士法人、行政書士法人、社労士事務所などのグループです。
税制は複雑化していく一方で、税理士を必要としない人々の税に関する知識は更新されていない…と感じ、より多くの人が正しい税知識を得て、よりよい生活をしてもらえたらいいなぁと思って開設したサイトです。専門用語には注釈をつけたり、いつも払っているだけの税金のその先も知ってもらえたら嬉しいです。
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