自宅(居住用不動産)を売却したときには、売却価格からさまざまな費用を差し引いた利益(譲渡所得)に税金がかかる仕組みになっています。しかし、居住用の不動産には非常に強力な特例が用意されており、多くの方が税負担を大きく抑えることができます。

本コラムでは、譲渡所得の基本から、必ず押さえておきたい特例、そして税率までをわかりやすくまとめました。

1.そもそも自宅を売ると税金がかかる? ― 譲渡所得の基本

自宅を売却した際、利益が出た場合には所得税・住民税が課税対象になります。
まずは税金がかかる仕組みを確認しておきましょう。

譲渡所得の計算式

譲渡所得 = 譲渡価格 -(取得費 + 譲渡費用)
譲渡所得×税率=譲渡所得税!

  • 取得費:購入代金、仲介手数料、リフォーム費用など
  • 譲渡費用:売却時の仲介手数料、登記費用 など
  • 税率:所有期間や居住期間によって異なります

この計算で利益が出たときのみ課税されます。
取得費が分からない場合は譲渡価格の5%で計算できます。

2.自宅を売るときに必ず検討したい「3つの特例」

居住用不動産には次の3つの特例があり、条件を満たすと税金が大きく軽減されます。

(1)3,000万円の特別控除(最も使われる特例)

自宅を売ったとき、最大3,000万円まで利益が非課税になる特例です。
大多数の方がまず検討するのがこの制度です。

【主な適用要件】

  • 自分が実際に住んでいた家であること
  • 売却した年から2年前までの期間に同じ特例を使っていない
  • 親族など特別関係者への売却ではない
  • 居住しなくなってから3年後の年末までの売却であればOK

譲渡益が3,000万円以下であれば、税額はゼロになります。

(2)軽減税率の特例(10年以上住んでいた人向け)

自宅に10年以上居住していた場合に適用できる制度です。
通常よりも税率が下がるため、特に利益が大きい方に有利です。

3,000万円控除を使った後の課税対象部分に、以下の税率が適用されます。

【軽減税率】

  • 6,000万円以下の部分:14.21%
  • 6,000万円超の部分 :20.315%

通常の長期譲渡の税率(20.315%)と比較すると、10%以上の差が出ることもあります。

自宅の売却時の税率は5年以下、5年超、10年以上で異なります!

短期間しか住まなかった家は税率が高いので要注意!

ケース税率(合計)
短期(5年以下)39.63%
長期(5年超)20.315%
軽減税率(10年以上居住)6,000万円以下14.21%
軽減税率(10年以上居住)6,000万円超20.315%

◆ 税率に関する補足ポイント

  • 所有期間の判定は「売った年の1月1日時点」で行います。
    例:2019/7に購入 → 2025/3売却 → 2025/1/1で5年超となるため「長期」扱い。
  • 3,000万円控除は税率ではなく“課税所得を減らす制度”
    3,000万円まではゼロにして、その残りに税率をかける仕組み。
  • 軽減税率は「居住期間10年超」で判定
    所有期間ではなく居住期間が要件に含まれる点に注意。
  • 住宅ローン控除とは同時には使えない
    売却した年に住宅ローン控除(残高控除)を受ける人は軽減税率などとの関係に注意。

(3)買換え特例(課税を繰り延べる制度)

新しい住宅に買い替える場合、売却益に対する課税を将来に繰り延べることができます。
ただし要件が厳しく、最終的には売却するときに課税されるため、利用は慎重な判断が必要です。

■ 3.特例の併用が可能なもの!不可能なもの

組み合わせ併用可否理由(簡単に)
3,000万円控除 × 軽減税率併用できる立法上、併用を前提とした設計
3,000万円控除 × 買換え特例× 併用不可制度の趣旨が根本的に異なるため。重複適用は認めない
軽減税率 × 買換え特例× 併用不可同じく、税負担軽減策の二重取りを防止
買換え特例 × 譲渡損失の特例(住宅ローン残高の損益通算)× 併用不可“利益”を繰延する制度と、“損”を通算する制度は同年併用できない
3,000万円控除 × 譲渡損失の特例× 併用不可利益を控除する制度と損益通算制度は趣旨が異なり併用不可
軽減税率 × 譲渡損失特例× 併用不可そもそも利益が出ない(損失)ケースは税率特例の対象にならない

3,000万円控除と軽減税率は併用可能です。

投稿者プロフィール

YFPクレアグループ
YFPクレアグループ
税理士法人、行政書士法人、社労士事務所などのグループです。
税制は複雑化していく一方で、税理士を必要としない人々の税に関する知識は更新されていない…と感じ、より多くの人が正しい税知識を得て、よりよい生活をしてもらえたらいいなぁと思って開設したサイトです。専門用語には注釈をつけたり、いつも払っているだけの税金のその先も知ってもらえたら嬉しいです。

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