抗がん剤治療などにより脱毛に悩む方々にとって、医療用ウィッグは単なる美容アイテム以上の存在です。
しかし、医療費控除や保険の対象になるかどうか、正確な情報を把握していない方も多いのではないでしょうか。
本コラムでは、医療用ウィッグとおしゃれ用ウィッグの違いを明確にし、税務上・社会保険上の取り扱いや自治体の助成制度について、わかりやすく解説します。
医療用ウィッグとは
医療用ウィッグとは、抗がん剤治療や脱毛症、その他の疾患や治療によって髪を失った方々のために作られた、医療的配慮がなされたかつ自然な見た目を実現するウィッグのことを指します。
市販のファッション用ウィッグとは異なり、以下のような特徴があります。
- 地肌(頭皮)に直接装着することを前提に設計されている
- 敏感な肌に配慮した低刺激・通気性の高い素材を使用
- 医療施設などでの装着・脱着を考慮した構造
- 長時間の装着でも快適さを保つデザイン
(医療用ウィッグにもJIS規格が存在します。安全なウィッグで安心したい方は、基準を満たした製品を探すことがおすすめです。)
一方、ファッション用ウィッグは、髪の上から装着することを前提にしており、頭皮への配慮は医療用ほど重視されていません。
医療用ウィッグの税務上の扱い
医療費控除の対象には基本ならない
一般的に、医療用ウィッグは医療費控除の対象にはなりません。所得税や住民税の計算上、控除の対象となる医療費には「治療のために必要とされる支出」が求められます。
しかし、医療用ウィッグは原則として美容や外見の補完目的とみなされ、治療そのものに直接関わる費用とは見なされないためです。
例外的に、医師の診断により「頭部保護のために特殊な素材を使ったウィッグが治療に必要」と認められたケースでは、医療費控除が認められる可能性もあります。ただし、これはごく一部の非常に稀なケースです。
健康保険(公的医療保険)は適用されない
健康保険の給付対象には医療用ウィッグは含まれません。
健康保険がカバーするのは「治療に直接関係する医療行為・物品」であり、ウィッグは対象外とされています。
社会保険のその他の給付との関係
社会保険制度においても、医療用ウィッグが給付対象になることは基本的にありません。
障害者給付などでもウィッグに対する補助制度は存在しません。
税制優遇はなくとも、助成金がある!
医療費控除や健康保険の適用が難しい中で、注目すべきは自治体による助成制度です。東京都や大阪府をはじめとする一部の自治体では、抗がん剤治療などに伴う脱毛で医療用ウィッグが必要な場合、購入費の一部を助成する制度を設けています。
以下に、主要都市の助成制度をまとめました。
自治体名 | 助成上限額・率 | 回数制限・条件 |
---|---|---|
札幌市 | 上限30,000円 | 過去に同様助成を受けていない |
仙台市 | ½、上限20,000円 | 各品目1人1回、所得制限あり |
千葉市 | 上限50,000円または実費 | 各品目1回、1年以内申請 |
横浜市 | 上限10,000円 | 5年に1回、レンタル不可 |
静岡市 | 上限30,000円 | 同一品目で1回限り |
大阪市 | 上限30,000円程度 | 1回のみ(複数品目可) |
福岡市 | ½、上限20,000円 | 各品目1回、所得制限あり |
東京都 | 自治体により最大100,000円程度 | 多くが1〜2回申請可 |
申請には医師の診断書や領収書の提出が必要となることが多く、購入後の申請期限や所得制限、自治体間での助成重複制限などもあるため、詳細は各自治体の公式情報をご確認ください。
おしゃれ用ウィッグとの違いと注意点
「医療用」と表示されたウィッグであっても、税務上や保険制度上では「治療目的ではなく、美容目的」と見なされるため、上記のような控除や補助の対象とはなりません。
つまり、ファッション用であれ医療用であれ、購入者の目的や自治体の認定が重要になります。
まとめ
医療用ウィッグは、多くの患者さんにとって外見的な安心感や社会復帰への一歩となる大切なアイテムですが、税務上や社会保険制度上では基本的に自己負担となります。
そのため、自治体の助成制度を活用することが非常に重要です。制度の有無や条件は自治体ごとに異なるため、事前に福祉課や健康増進課などに相談すると良いでしょう。
投稿者プロフィール

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税理士法人、行政書士法人、社労士事務所などのグループです。
税制は複雑化していく一方で、税理士を必要としない人々の税に関する知識は更新されていない…と感じ、より多くの人が正しい税知識を得て、よりよい生活をしてもらえたらいいなぁと思って開設したサイトです。専門用語には注釈をつけたり、いつも払っているだけの税金のその先も知ってもらえたら嬉しいです。
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