減税は“金持ち優遇”?――その主張、ちょっと待った!
税理士が解説する、減税批判の構造的な誤解
はい!また出ました、「減税=高所得者優遇」論
最近の報道や政治の発言を見ていると、「減税は高所得者を優遇するからできない。」という声が目立ちます。
特にここ数年、この手の主張が繰り返し聞こえてきます。
たしかに、減税をすると誰かが得をする。
でもそれは当たり前です。税金を減らす=誰かの税負担が軽くなるわけですから。
問題は、「誰が得をするか?」ではなく、「誰がどれだけ負担していて、その減税に合理性があるか?」という点にあります。
このコラムでは、税理士としての専門的な視点から、「減税=高所得者優遇」という乱暴な議論がいかに本質を見失っているかを、数字と仕組みに基づいて説明します。
1. 「減税=金持ちが得」って、本当にそう?
〜仮に基礎控除を100万円にしたらどうなるか〜
まず最初に、極めてシンプルな例を使って考えてみましょう。
すべての納税者に共通して適用される「基礎控除」が、現在の48万円→100万円になったとしたら、どうなるでしょう?
以下にシミュレーションをまとめました。
年収 | 2024年の所得税額(概算) | 基礎控除100万円適用後 | 減額額 | 減額割合 |
---|---|---|---|---|
300万円 | 約5.4万円 | 約2.8万円 | 2.6万円 | 約48%減 |
600万円 | 約20万円 | 約15万円 | 5万円 | 約25%減 |
1,000万円 | 約83万円 | 約73万円 | 10万円 | 約12%減 |
2,000万円 | 約371万円 | 約354万円 | 17万円 | 約5%減 |
この表から分かることは明快です。
- 金額だけで見れば、高所得者の減税額のほうが大きく見える。
- でも減税の“割合”で見ると、もっとも恩恵を受けているのは低所得層。税金が半額って嬉しくないですか!?
つまり、減税は決して「高所得者だけを得させるもの」ではないということです。

やったー!今年は所得税半額だぜ!!(得した気分)

やったー!沢山減税されたぜ!!(得した気分)
と見ることもできるわけです。これだとみんなハッピーになります。
大事なのは、この表の一部を切り取って見るのではなく、全体像をきちんと見ることです。
年収300万円の人は年収2000万円の人の所得税額を見て下さい。所得税だけで、あなたの年収を超えた金額を納税してくれていますよ!
貴方の68年間分の所得税を1年間で納めてくれている人がいるんですよ。
それに、年収300万円の人は、税金が半額にされるんですよ!?めっちゃ嬉しくないですか?
高所得者はたったの5%引きなのに対して、48%引きなんて本来はめっちゃ優遇されてるのに、
テレビや政治家が

減税は高所得者優遇だ
といえば、「ムッキー!高所得者ゆうぐうなんて許せーん!」となってしまうのは全体像を見ていないからではないでしょうか?
いや、全体像を見せれば分かることをあえて隠しておきたい人たちがその中にいるからではないでしょうか?
もし仮に、

年収300万円の人は所得税の負担が半分に。
年収2000万円の人は17万円も減税になります!
と言うと、ものすごく聞こえが違うでしょう?
それでも「金持ちが17万円も得してるじゃないか!」と騒ぐ人がいる。
この問題は、税制度を“金額”だけで判断することの危うさを象徴しています。
税は常に「どのような構造で、誰にどの程度の影響を与えるか」を冷静に見なければなりません。
応能負担を呼びかけるなら、応能負担減もしなければ、負担がかかってばかりいるところのことを考えるべきではないでしょうか?
機械でも、臓器でも、スプーンでも、一部に負担をかけ続ければ、いつかグニャってなります。
自分がグニャっとなる部分でなかったとしても、その機械もスプーンももう使えないし、臓器の場合は…どうなるのでしょうね…想像すると怖いです。
2. 高所得者は“たくさん払ってる”からこそ戻る額も大きいだけ
所得税は累進課税です。つまり、所得が増えるほど税率が上がる仕組みです。
たとえば……
- 年収330万円以下:税率5%
- 年収900万円超:税率33%
- 年収4,000万円超:税率45%
そのうえ、社会保険料も年収に比例して高くなります。
さらに国税庁の統計によれば、所得税全体の約4割を、上位5%の高所得者が負担しているという現実もあります。
高所得者が負担している税額は、想像以上に多いのです。
このような実情を無視して「減税されてる=優遇だ!」と言ってしまうと、もともと多く払っていることに対する“正当な減額”までも否定することになります。
要するに、「多く払ってる人が多く減る」のは、制度上当然の帰結なのです。
これを「不公平」と言い出したら、それこそ税制そのものが破綻してしまいます。
3. 税の3原則「公平・中立・簡易」を無視しまくりなのもどうなの?
税の3原則については国税庁HPにてこのように記されています。
■税の三原則
社会の構成員として、税を広く公平に分かち合っていくため、「公平・中立・簡素」を原則とした税の制度としています。
公平の原則
経済力が同等の人に等しい負担を求める「水平的公平」と経済力のある人により大きな負担を求める「垂直的公平」があります。
近年は、「世代間の公平」が重要となっています。
中立の原則
税制が個人や企業の経済活動における選択を歪めないようにします。
簡素の原則
税制の仕組みをできるだけ簡素にし、理解しやすいものにします。
徴収するときは応能負担を呼びかけ、累進課税を払うのに「公平」を訴えているのにもかかわらず、
減税するときに関しては、「公平」は無視して、「簡易」も無視して複雑なものにしていく…
基礎控除も48万円から超複雑怪奇なものになってしまい、税理士事務所としては困惑でしかありません。
原則なんですから、それを忘れてはいけません。
4. そもそも日本の税制、手取りが下がりすぎ問題
今、日本で起きているのは、「高所得者が得している」どころか、働いても働いても手取りが増えないという現象です。
とくに中間層・共働き世帯では、「世帯年収900万円を超えた瞬間」に壁が立ちはだかります。
- 所得税率が23%→33%に大幅アップ
- 子ども関係の支援が所得制限(児童手当の所得制限は撤廃されるも、障害児福祉などの所得制限は残っている)
- 保育料が大幅アップ(1ヶ月8万円!パート代がパーになるから、一旦専業主婦に。その後「ブランクがある」と言われて再就職が難しくなる)
- 住宅ローン控除の縮小、所得制限が2000万円に
- 医療費助成などの対象外に
つまり、「頑張った結果」が「支援からの除外」という形で返ってくるのです。
一方、所得が増えるほど住民税・社会保険料もガッツリ増加。
結果として、「可処分所得が減る」という逆転現象が起こります。
こういった構造こそが、働き損・共働き損と言われる根源であり、所得制限撤廃や減税によってこれらを是正しようとするのは、ごく自然な政策判断です。
5. 「高所得者優遇ガー!」と言ってる間に、誰が一番得してるか?
前章でも触れた通り、高所得者が得をする構造があるなら、それはもともと高額の税金を払っているからにすぎません。
では、「減税はけしからん!」という空気に便乗して、
本当に“得”をしているのは誰なのか?
答えは――日本政府です。
高所得者にも中間層にも減税せず、取りっぱなしにできる。
「お金持ちがズルい!」という世論をうまく利用すれば、政府は一銭も出さずに“正義の味方”になれます。
でも実際は、その間に我々普通の所得層が減税されるチャンスを逃しているのです。
結果的に、住民税非課税世帯という、ほぼ働いていない人にだけ給付金を配られてきたことを現役世代は忘れてはなりません。
2025年夏の参議院選挙前に一人2万円配るというのも事務手数料が9000円。
だったら29,000円減税できたじゃないか!!というツッコミが止まりません。
ここで必要なのは、冷静で、構造を理解した視点。

高所得者優遇?。税金たくさん払ってるんだから、それくらい当然じゃないか。
と、国民全体がスラスラ言える社会のほうが、はるかに健全で全員納得のいく税の構造ではないでしょうか。
私はもはや、この税の構造は義務教育で教えたほうがいいと思います。
6. 子ども3人で高所得者?――“見かけの所得”だけで議論する愚かさ
よく「年収900万円もあるんだから高所得者だよね」という言葉を見かけます。
ですが、その人が子ども3人育てていたら?
状況はまったく違います。
- 教育費(塾・習い事・進学):年100万円超
- 食費・医療費・衣服・住居費
- 加えて住宅ローン、生命保険……
実際には、自由に使えるお金は驚くほど少ないという現実があります。
0〜15歳の子ども1人にかかる生活費は、年間80万円〜100万円とされています。
3人いれば単純に250〜300万円分の支出が増える計算です。
それでも、「年収が高いから」として支援は打ち切られ、
さらに「減税されるなんてズルい」と言われる……。
子育てをしている家庭は子育てのために年間100万円使うのに、0~15歳の間は扶養控除なし!
これの意味するところは、所得税、住民税、厚生年金、健康保険、労働保険は独身と全く変わらないんですよ。
80~100万円を子どものために使っているのに、児童手当はたったの12万円。
残りの68~88万円は「愛の力で乗り切ってね?」「親の責任でやってね?」をやっているわけです。
少子化対策するすると言って、全く効果でてないのは、庶民はこの68~88万円が出せるか、出し続けられるか…が不安だからです。
それだけではなく、68~88万円を出した上で、独身の方と同様に老後資金を貯めなければならないわけです。
皆さんにとって毎年88万円の出費は小さい金額ですか?大きい金額ですか?これが毎年ですよ?
高校無償化とかあっても、制服代や修学旅行代はかかりますからね?無償化という名前がついているだけで、実際にはお金かかりますからね?
真面目な人ほど、子どものことや自分たちのことを自力でやろうとする人ほどこの不安で子どもの人数を絞ってしまうのではないでしょうか?
これが出生率を下げる最大の原因のひとつになっています。
子どもを持つ家庭に冷たい社会で、誰が産もうと思うでしょうか?
これについては、日本政府だけではなく、我々国民も子育てにもっと寛容さがあれば、変わる物があると感じております。
筆者自身も、もっと考えて行動せねばと感じる今日このごろです。
7、年収1億と1000万が同じ「高所得者」に分類するほうが無理がある
皆さん、年収1億の方とお会いしたことありますか?
私はないです!(ないんかい!!)ですが、SNS等を見ていると元議員が「高所得者まで給付はやり過ぎ」とか言っているのを見かけます。
「貴方の言う高所得者の定義は?」これをいつも思います。
議論をするにしても、みんなが同じことを想像してるかは
唐突ですが、弊社のお客様の給与所得の最高額は3億円超です。
すごいですよね…私、お恥ずかしながら一生涯かけてもそんな稼げないっす(笑)
ですが、こんな化け物級の稼ぎ手と、年収1000万円を一緒の「高所得者」と扱うほうが無理があると感じております。
比で示せば30:1ですからね。とんでもない差があると思うのです。
3億円の方は生活に余裕があるでしょうが、世帯年収1000万円程度だと東京だと中レベル。ごく一般的な層です。
で?3億円の人と同じように振る舞え…という方が無理がある。
おわりに:「優遇」という言葉が、思考停止を招いていないか?
減税によって、ある層が得をする。
でも、それは見方によって全然異なるものです。
でも、それを「優遇」とレッテル貼りして批判する風潮は、
議論を感情的にし、制度改革の芽を潰してしまう危険な風潮です。
税制は「構造と負担」と「再分配のバランス」が命です。
感情ではなく、数字と仕組みを見て判断すべきなのです。
本当に公平な社会をつくるためには、
「誰が得しているか」ではなく、
「誰がどれだけ担っているか」を見ること。
その視点を、今こそ取り戻す必要があります。
投稿者プロフィール

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税理士事務所にてサイトを作って約10年。
税制は複雑化していく一方で、税理士を必要としない人々の税に関する知識は更新されていない…と感じ、より多くの人が正しい税知識を得て、よりよい生活をしてもらえたらいいなぁと思って開設したサイトです。
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