日本人にとって、温泉は癒しの代名詞とも言える存在です。日頃の疲れを癒すために温泉に行く方も多いと思いますが、実は「温泉療養」が医療費控除の対象になるケースがあることをご存じでしょうか?

「え?温泉って観光でしょ?」「医療費扱いになるなんて聞いたことない!」と思われるかもしれませんが、条件さえきちんと整えば、税務上も“治療”と認められる可能性があるのです。これは、医師の指示に基づいて、特定の療養目的で温泉に通う場合などに限られますが、うまく活用できたら節税にもつながります。

本コラムでは、温泉療養が医療費控除として認められるための条件や注意点、実際の申告の際に気をつけるポイントなどを、税理士の目線でわかりやすく解説していきます。「湯治が医療費控除になるなんて意外!」と思った方こそ、ぜひ最後までご覧ください。しっかり準備すれば、心も体もお財布も温まるかもしれませんよ。

医療費控除とは

医療費控除とは、1年間に支払った医療費が一定額を超えた場合に、その超えた分を所得から差し引くことで、税金が軽くなる制度です。主に所得税と住民税に影響します。

対象となる医療費は、本人だけでなく、生計を一にする家族(配偶者や子ども、同居している親など)の分も合算できます。生計が同じなら、別居の親に仕送りしている場合でも対象になります。

では、いくらから控除されるかというと、「その年の1月1日から12月31日までに支払った医療費の合計」から「保険金などで補填された金額」を引き、さらに【10万円】または【総所得金額等の5%】のいずれか少ない方を差し引いた金額が、医療費控除の対象になります。

例:

  • 医療費合計 40万円
  • 保険金などの補填 5万円
  • 総所得300万円 → 5%は15万円、10万円の方が小さいので控除基準は10万円
    → 40万円 − 5万円 − 10万円 = 25万円が医療費控除対象額

控除対象となる費用には、病院での診療費・治療費、処方薬代、通院の交通費(電車・バス)などが含まれます。一方、美容整形や健康診断(治療を伴わない場合)などは原則対象外です。

医療費控除の適用を受けるには、確定申告が必要です。会社員で年末調整を受けている方も、別途申告することで還付を受けることができます。申告には、支払先や金額が分かる領収書や明細書が必要となるため、しっかりと記録を残しておくことが大切です。

次章では、この医療費控除のルールを踏まえて、「温泉療養」が対象になるための具体的な条件を解説していきます。

3.温泉療養が医療費控除になるための条件

温泉と聞くと「観光」「リフレッシュ」「娯楽」というイメージが強いですが、条件を満たせば「治療の一環」として医療費控除の対象になることがあります。ただし、どんな温泉旅行でもOKというわけではありません。以下の3つのポイントを押さえることが重要です。

■ 対象となる温泉施設は限られる

税務上の医療費として計上できるのは厚生労働省が「温泉利用型健康増進施設」として認定した温泉施設・温泉宿のみです。温泉利用型健康増進施設には温泉利用指導者資格を持ったスタッフが配備され、医師が作成した「温泉療養指示書」に従って利用者を指導します。

温泉療養が医療費控除として認められるためには、単なる癒しやリラックスではなく、「治療目的」であることが大前提です。たとえば、リウマチや神経痛、皮膚疾患などで、温泉の泉質が症状の緩和に有効とされる場合には、その入浴が医学的な意味を持つことになります。

逆に、「疲れがたまっているから温泉でのんびりしたい」「旅行を兼ねて温泉に行きたい」という理由では、税務上は単なる観光・娯楽と判断されてしまい、医療費控除の対象にはなりません。

■ 単なる観光・リフレッシュでは不可

たとえ温泉に行くきっかけが「体調不良」であっても、宿泊先が観光旅館だったり、レジャー施設とセットになっていたりすると、税務署からは“湯治旅行”とみなされます。

ポイントは、「医学的な理由に基づいて」「一定期間・継続的に」「医師による治療に準じる形で」温泉療養を行っているかどうかです。健康増進や気分転換を主目的とするような利用では、医療費控除は厳しいでしょう。疲れてしまった心と体の方には、税金のこととか考えずに、リフレッシュして頂くことを推奨します。その方が楽しいです。

■ 医師の指示書(温泉療養指示書)があること!

そして、最も重要なのが「医師の指示」があるかどうかです。医療費控除において、温泉療養を治療として認めてもらうには、担当医による診断と治療計画が記載された「温泉療養指示書」が必須です。

この文書には、具体的な症状・診断名・療養の必要性・推奨される温泉地や泉質などが明記されている必要があります。また、その温泉施設も療養目的の利用を受け入れている場所(療養型温泉施設)で指定されている場所でなければなりません。

このように、「温泉=治療」と税務上で認めてもらうためには、明確な医学的根拠と書類の裏付けが不可欠です。

しかし、お医者さんの考え方や経験から「温泉ではなく、理学療法を・・・」などいったメジャーで、お医者さんにとっても馴染みが深い西洋医学の治療を勧められる可能性もあります。

しかし病院にかかるということは当然、目的は温泉ではなく治療ですので、お医者さんの指示に従いましょう。
もちろん、お医者さんの指示に従った治療も医療費控除の対象です。

6.実際に医療費控除を受けるための流れ

温泉療養を医療費控除として申告するには、「医者が言った!治療だった!」と主張するだけでは不十分です。客観的な証拠や書類の整備が何より重要です。ここでは、控除を受けるための準備と申告手続きの流れを解説します。

■ 医師の診断書・指示書を取得する

まず最優先なのが、医師からの「温泉療養指示書」が必要です。そこには以下のような内容が明記されていることが望ましいです。

  • 病名や症状
  • 温泉療養が治療として必要である旨
  • 療養内容(入浴、湯治、滞在日数など)
  • 温泉の泉質や条件に関する記述があるとベター

この文書がないと、税務署に「単なる旅行」と判断されます。必ず事前に医師に相談し、指示書の発行を依頼しておきましょう。

■認定施設で温泉療養を行う

温泉ならどこでもいいというわけではありません。厚生労働省が認める施設でなければなりません。

全国で20箇所程度しかないので、ご確認ください。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/seikatsu/index_00002.html

おおよそ1ヶ月以内に7日以上の療養を受ける必要があります。温泉療養指示書に従い、温泉利用指導者の指導のもと、行われます。指導料が温泉料とは別でかかる可能性がありますが、指導料も医療費控除をすることが出来ます。

■ 温泉施設から領収書と温泉療養証明書を受け取る

温泉療養が終了後、領収書や温泉療養証明書を持って、お医者さんのところへ再度診察を受けます。

■ 交通費の記録もしっかり残しておく

交通費(電車・バスなど)は医療費控除の対象になる場合があります。そのため、日時・経路・金額・目的を記録しておくことが大切です。領収書が出ない場合でも、メモや移動履歴、ICカードの利用履歴などを活用しましょう。もちろん、観光などを行った場合、それらは医療費控除の対象にはなりません!

■ 再び医師を訪問し、「温泉療養証明書」に終了証明をもらう

「温泉療養指示書」は温泉利用指導者に、どんな治療を行うのかを指導したのにたいし、「温泉療法証明書」は税務署長へ、どんな症状で、どんな治療を行ったのか…などを証明するための税務書類です。温泉施設の温泉利用指導者と医者に温泉療養証明書に終了証明を書いてもらったものを確定申告で使用します。

■ 確定申告で医療費控除を申請する

準備が整ったら、翌年の2月中旬〜3月中旬の確定申告期間中に申告を行います。会社員でも医療費控除を受けるには確定申告が必要です。申告には以下の書類を用意します。

  • 医療費控除の明細書(国税庁サイトや会計ソフトで作成)
  • 温泉療養証明書
  • 領収書や療養記録(念のため原本を保存)
  • 交通費等の記録や証明

電子申告(e-Tax)を使えば、郵送よりもスムーズに提出できます。還付される税額がある場合、申告から1~2ヶ月で振り込まれるのが一般的です。

【まとめ】節税しながら温泉旅行がしたい!と思った方へ

ここまで読んで「えー!じゃあ今週末は医者から出してもらった温泉療養指示書を片手に温泉でも行くかぁ」という人、ちょっと待って!!

貴方が思っている温泉では全然ないかもしれません。

というのも、温泉療養指示書をちゃんと見ていただくと、温泉の温度の指示、入浴時間、回数、飲泉量、総カロリー数、塩分摂取量、運動指示なども記載されます。

温泉に入っている間も、温泉利用指導者資格をもったスタッフに見られ、温泉のあとのビール・・・とかも場合によっては制限されるかもしれません。(治療中ですから当然ですね!)

また、どんだけ「節税できる!」と言っても、使った分以上に税金が安くなることはありません。また、診察代とは別で、温泉療養指示書や温泉療養証明書を書いてもらうのも、お医者さんに数千円は支払うことになります。

しかも1ヶ月に7日以上、温泉利用指導者のもとで、指示通りに温泉に入ることになり、その上、栄養指導や運動指導もあり、終わったあとに、医者の修了証明がなければ医療費控除にはなりません。

「リラックス出来なさそうだな」

と感じるかと思いますが、温泉療養の目的はリラックスではなく、疾病などの治療が目的なので当然と言えるかもしれません。

一方で、今までの医療で納得の行く結果が得られなかった方などで、温泉なら治るかも?という希望がある方は、医療費控除を受けられるので、チャレンジして頂くのはありなのかもしれないです。お医者さんの中には「温泉療養指示書」の存在も知らない方もいらっしゃるかもしれませんが、きちんとご説明の上、治療をしていただければと思います

温泉療養指示書リンク

https://www.jph-ri.or.jp/onsen-nintei/data/ryoyo_shijisho1.docx

参考文献

温泉療養は医療費控除が受けらる?医療費として計上できる温泉施設・温泉宿の条件とは? - ホテル・宿泊業界情報コラム|おもてなしHR

温泉施設・温泉宿の利用料金は、医療費控除の対象となる場合があります。医療費控除とは、1年間に支払った医療費が高額だった場合、確定申告することで所得税・住民税が減…

投稿者プロフィール

分かる税!編集部
分かる税!編集部
税理士事務所にてサイトを作って約10年。
税制は複雑化していく一方で、税理士を必要としない人々の税に関する知識は更新されていない…と感じ、より多くの人が正しい税知識を得て、よりよい生活をしてもらえたらいいなぁと思って開設したサイトです。

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