【相談内容】
私は現在、ある会社で正社員として働いています。
業務の中でアルバイトの勤怠や給与の処理に関わることがあり、先日、どうしても気になることがありました。
それは、アルバイトとして登録されている人物の中に、実際には一度も出勤していない人が何人かいたことです。
名前だけはシステムにあり、給与も支払われているようなのですが、出勤記録も作業報告もまったく見当たりません。
不審に思って調べてみると、その名前の中に店長のご家族と一致する人物が含まれているようなのです。
店長本人がその件に触れることはなく、周囲も暗黙の了解のような雰囲気があり、誰も何も言いません。
私は正直、これが会社のお金を使った不正ではないか?と疑っています。
しかし、もし指摘すれば、私がにらまれたり、立場が悪くなるのではないかと不安です。
知らなかったふりをしてやり過ごすこともできるかもしれませんが、それでいいのかと、悩んでいます。どうするべきでしょうか?
【回答】
この相談は、いわゆる「架空人件費」による不正処理の疑いに関するものです。
会社の帳簿上は“アルバイトに給与を払った”という処理がされているにもかかわらず、実際には働いていない人物に対して給与が支払われているとすれば、次のような問題が発生します。
1. 税法上の不正処理(脱税)
会社が支払った給与は、本来「費用」として法人税計算の上で損金に算入されます。
しかし、実在しない労働に対して支払った給与は、損金として認められません。
それを知りながら損金計上していれば、法人税法上の「仮装・隠蔽」に該当し、重加算税や延滞税などが課される対象になります。つまり、会社が損をする上、税務上の信頼を失います。
更に、店長の身内の名義を使って、店長が給与を受け取っていた場合(名義給与)、所得税法違反の可能性もあります。
2. 刑事上の問題(横領・背任)
給与が実際には店長やその家族の利益となっている場合、会社のお金を私的に流用している=業務上横領罪(刑法253条)が成立する可能性があります。
また、企業の利益を損なう行為であるため、背任罪(刑法247条)も該当する恐れがあります。
3. 労務・社会保険上の虚偽申告
仮に架空の従業員に対して雇用保険・社会保険の手続きがなされている場合、虚偽の届け出と見なされ、不正な保険料負担や助成金受給などに発展していればさらに深刻です。
【では、これからどうするべき?】
今回のケースは、会社にとって非常に重大なコンプライアンス上の問題を含んでいます。
相談者が指摘しているとおり、「これは不正なのではないか?」という感覚は極めて正しいものです。
◎この問題を放置するリスク
相談者さんがこの事実を把握していながら黙認してしまった場合、将来的に問題が発覚した際に、「関与していなかったとしても、知っていて見逃した人」もしくは「コンプライアンス意識に欠けている」という会社側の認識・扱いにされる可能性があります。
これは、労働者としての立場を守るうえでも大きなリスクです。
◎通報・告発の方法と保護制度
報復を恐れるのは当然ですが、現在は「公益通報者保護法」により、一定の条件下で通報者が守られる仕組みがあります。
- 通報内容が法令違反に該当すること
- 通報が正当な目的に基づいていること
- 通報先が適切であること(社内窓口・国税庁など)
条件を満たせば、解雇・降格・不利益取扱いは法律で禁止されており、会社側が報復すれば逆に法的責任を問われます。
社内通報制度がある場合は匿名で活用もご検討ください。
また、コンプライアンス担当窓口などがあればそちらでもいいかと思います。
◎今すぐ行動すべきこと
- 事実関係を冷静に整理・記録する(名前・金額・時期・関係者)
- 直接上司に告げるのではなく、内部通報制度があればまずそちらへ
- 告げるときは、事実だけを伝え、推測や憶測は一切入れない
- 外部の弁護士や税理士に相談し、第三者の目で状況を判断してもらう
【まとめ】
このような問題に直面したとき、「見て見ぬふり」をするのは一見安全に思えますが、長期的には自分の立場や会社そのものを危うくすることにもつながります。
不正に巻き込まれないためにも、まずは冷静に情報を整理し、自分を守りながら適切な相談窓口を活用することが重要です。
そして、冷静に対応しましょう。このページにたどり着いたように気になったことを色々と調べてみましょう。
投稿者プロフィール

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税理士事務所にてサイトを作って約10年。
税制は複雑化していく一方で、税理士を必要としない人々の税に関する知識は更新されていない…と感じ、より多くの人が正しい税知識を得て、よりよい生活をしてもらえたらいいなぁと思って開設したサイトです。
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